本記事では、コイルの直流抵抗値の計算方法について説明します。
コイルの設計製作を始めて行う方を対象にしています。
コイルの設計において、コイルの直流抵抗は、インダクタンスと並んで重要なパラメータになります。しかしコイルの直流抵抗は、エナメル線の温度によって変化します。従って、図面で抵抗値を規定する場合、測定温度の記載が必要になります。
JIS C3215で規定している値は、20℃における抵抗値となっています。
抵抗値計算式
図1は、長さL、断面積Sのエナメル線です。
このエナメル線の抵抗値\(R\,(\Omega)\)は、以下の式で計算できます。
\[R(\Omega)=\rho\,\frac{L}{S}\tag{1}\]
\(\rho\,:\,導体抵抗率\,(\Omega \cdot mm^{2} \cdot m^{-1})\)
\(L\,:\,エナメル線の長さ\,(m)\)
\(S\,:\,エナメル線の断面積\,(mm^{2})\)
ここで、導体抵抗率\(\rho\)は温度に依存する値です。
JIS C3215では、20℃の導体抵抗率を\(1/58.5\,\doteqdot \,0.0170940\,\Omega \cdot mm^{2} \cdot m^{-1}\)と
しています。
長さの単位は\(m\)で、断面積の単位は\(mm^{2}\)であることにご注意下さい。
円形コイルの直流抵抗計算式
抵抗値は(1)式で計算できますが、エナメル線の総長\(L\)を、どのように求めるかが
ポイントになります。
エナメル線の総長さは、一般に以下の近似式により求めます。
エナメル線の総長さ = コイル1周の平均長さ × 総巻数 + 引出線の長さ \((2)\)
円形コイルの場合、コイルの1周平均長さは、図2の一点鎖線で示した円の周長になります。
総長さ\(L\)は、引出線の長さを\(\alpha\)とすると(図2の例では\(\,\alpha\doteqdot2c+\dfrac{(b-a)}{2}\))
\[L\,=\,N \pi \, \frac{(a+b)}{2}+\alpha\tag{3}\]
\(\,L\,:\,エナメル線総長さ\,(m)\)
\(N\,:\,巻数\,(turns)\)
\(\,\,a\,:\,図2コイル内径\,(m)\)
\(\,\,b\,:\,図2コイル外径\,(m)\)
\(\,\alpha\,:\,引出線総長さ\,(m)\)
次に、エナメル線の断面積\(S\,mm^{2}\)は、導体径を\(d\,mm\)とすると、
\[S \,= \,\pi\, (\dfrac{d}{2})^{2} \tag{4}\]
従って、20℃のコイルの直流抵抗値\(R(20)\)は、(3)、(4)、(1)式から、
\[R(20) \,= \, \rho \,\cdot \cfrac{N \pi \, \cfrac{(a+b)}{2}+\alpha}{\pi \,(\cfrac{d}{2})^{2}} \tag{5}\]
整理してまとめると、
\[R(20)\,=\,2\rho \,\cdot\dfrac{N\pi (a+b)+2\alpha}{\pi d^{2}}\tag{6}\]
\(\,\rho\,:\,導体抵抗率\,(\Omega \cdot mm^{2} \cdot m^{-1})\)
\(N\,:\,巻数\,(turns)\)
\(\,\,a\,:\,図2コイル内径\,(m)\)
\(\,\,b\,:\,図2コイル外径\,(m)\)
\(\,\alpha\,:\,引出線総長さ\,(m)\)
\(\,\,d\,:\,導体径\,(mm)\)
(6)式が、円形コイルの、20℃直流抵抗の計算式になります。
矩形コイルの直流抵抗計算式
次に矩形コイルの抵抗値を、円形コイルと同様の手順で計算します。
矩形コイル1周の平均長さは、図3の一点鎖線の長さになります。
一般に、図面で指示する寸法は、図3の\(a1,a2,b1,b2,c,R\)になりますが、ここでは
\[\cfrac{(b1-a1)}{2}=\dfrac{(b2-a2)}{2}=\beta とします。\]
図3より、コイル1周の平均長さ\(L1\)は
\[L1=2(a1-2R)+2(a2-2R)+2\pi\,(R+\dfrac{\beta}{2})\tag{7}\]
コイルの巻数を\(N\)、引出線の総長さを\(\alpha\)とすると(図3の例では \(\,\alpha\doteqdot2c+\beta\))
エナメル線の総長さ\(L\)は\[L=N\{2(a1-2R)+2(a2-2R)+2\pi\,(R+\dfrac{\beta}{2})\}+\alpha\tag{8}\]
エナメル線の断面積\(S\,mm^{2}\)は、導体径を\(d\,mm\)とすると、
\[S \,= \,\pi\, (\dfrac{d}{2})^{2} \tag{9}\]
(8)、(9)、(1)式から、20℃のコイルの直流抵抗\(R(20)\)は
\[R(20)\,=\,\rho\,\cdot\cfrac{N\{2(a1-2R)+2(a2-2R)+2\pi\,(R+\cfrac{\beta}{2})\}+\alpha}{\pi\, (\cfrac{d}{2})^{2} }\tag{10}\]
整理してまとめると、
\[R(20)\,=\,4\rho\,\cdot\cfrac{N\{2(a1+a2)-2R(4-\pi)+\pi\beta\}+\alpha}{\pi d^{2} }\tag{11}\]
\(\,\,\rho\,:\,導体抵抗率\,(\Omega \cdot mm^{2} \cdot m^{-1})\)
\(\,N\,:\,巻数\,(turns)\)
\(a1\,:\,図3コイル内径寸法1\,(m)\)
\(a2\,:\,図3コイル内径寸法2\,(m)\)
\(\,\,R\,:\,図3コイル内径角R\,(m)\)
\(\,\,\alpha\,:\,引出線総長さ\,(m)\)
\(\,\,\,d\,:\,導体径\,(mm)\)
(11)式が20℃の矩形コイルの抵抗値の計算式となります。
銅線温度と抵抗値
実際の設計では、実使用時の コイルの最高温度と最低温度を把握し、それぞれの抵抗値を
知る必要があります。
(1)製品動作時の コイルの最高温度と最低温度を把握する。
↓
(2)コイルのインピーダンスの最大 最小値を求める。
↓
(3)設計マージンを考慮して回路の仕様を確認する。
↓
(4)問題があれば、回路変更、放熱検討、またはコイルの仕様変更。
という流れになります。
温度変化による抵抗値の変化は、以下の式で計算できます。\[R(T)=R(t)\{1+\alpha(T-t)\}\tag{12}\]
\(R(T)\,:\,T℃での抵抗値\,(\Omega)\)
\(R(t)\,:\,t℃での抵抗値\,(\Omega)\)
\(\,\,\alpha\,:\,抵抗温度係数=0.00393\,(1/℃)\)
\(\,\,T\,:\,(計算したい)温度\,(℃)\)
\(\,\,\,t\,:\,(基準となる)温度\,(℃)\)
\(\alpha\)は 温度に依存する係数ですが、金属の場合、室温付近のあまり広くない温度範囲では、温度によらない定数と考えて差し支えありません。
軟銅の場合は\(\alpha=0.00393(1/℃)\)となります。
今回の記事はここまでになります。
次回は、インダクタンスの計算方法についてご説明します。