本記事では、コイルを製作する際の、総巻数の計算方法について説明します。
初めてコイルの設計をされる方を対象にしています。
本内容は、決められた寸法内に、できるだけ沢山巻線をしたい時の計算方法になります。
以下の図1~図3を使って説明します。
整列巻きコイルの巻数計算法
図1と図2は、図3をイメージし易くするための図です。
図3には一例として、10ターンずつ5層の巻線を行った場合のコイル断面を示しました。
この図から解るように、
\(w\)寸法に\(\dfrac{d}{2}\)の隙間を与えることにより、各層を同じ巻数で巻くことができます。
図4に、\(\dfrac{d}{2}\)の隙間を設けずに整列巻きを行った場合の断面図を示します。
この場合は、偶数層の巻数=(奇数層の巻数-1)となります。
計算の煩雑さを避けるため、各層とも同じ巻数となる、図3の巻き方で巻くことが多いです。
さて、与えられた\(w\)と\(h\)の寸法内に、できる限り沢山の巻線を行いたい場合の巻数計算式は、以下となります。
1層あたりの巻数計算式
図3から
\[w=\,d\times n+\frac{d}{2}\tag{1}\]
\(w:\)コイルの長さ\((mm)\)
\(d:\)被膜の厚さを含めた線径\((mm)\)
\(n:\)1層あたりの巻数(自然数)
従って1層あたりの巻数\(n\)は
\[n=INT\, (\frac{2w-d}{2d}\tag{2})\]
ここでINTは、Excelに倣い、小数点以下を切り捨てる関数を示します。
計算の手順は、まず線径\(d\)を決める。→(2)式から1層あたりの巻数\(n\)を求める。→(1)式から\(w\)の最終寸法を求める。という流れになります。
注意すべき点
実勢の空芯コイルでは、内周側の巻き始め線を、外周側へ持ってくることになります。
(下図5参照)
このため、実際の仕上がり寸法は、上式で計算した\(w\)に、図5の\(\alpha\)を加えた値になります。この点注意が必要です。
層数の計算式
\(l\,\)層巻いた際の図3の寸法\(m\)を\(m(l)\,\)とすると
\[m(l)=\frac{\sqrt{3}d}{2}\, (l-1)+d\tag{3}\]
\(m(l):\)コイル層方向長さ\((mm)\)
\(d\: :\)被膜の厚さを含めた線径\((mm)\)
\(l\: :\)層数(自然数)
次に、\(m(l)\,\)は以下の条件を満たす必要があります。
\[m(l)\,\leqq\,h\tag{4}\]
\(l\,\)を求めるために(3)式を (4)式に代入すると、
\[\frac{\sqrt{3}d}{2}\, (l-1)+d\,\leqq\,h\tag{5}\]
この式を\(l\,\)について解くと、
\[l\,\leqq\,\frac{2(h-d)}{\sqrt{3}d}+1\tag{6}\]
この式を満たす自然数\(l\,\)の最大値\(lmax\,\)は
\[lmax\,=\,INT\,\{\frac{2(h-d)}{\sqrt{3}d}+1\}\tag{6}\]
となります。ここでINTは、小数点以下を切り捨てる関数を示します。
以上より、整列巻きでの総巻数 \(N=n\times lmax\)となります。
非整列巻きコイルの巻数計算法
非整列巻きは「ガラ巻き」などとも呼ばれ、整列に巻かれていない巻線の状態を言います。
量産時には一般的に、人の手を介さない高速巻線機を使います。高速巻線機で完全整列巻きは難しいため、基本的に非整列巻きとなります。
非整列巻きの巻数計算は、エナメル線の占積率という値を使って行います。
占積率とは、巻線を行うエリアに対し、エナメル線の占める割合を%で表した値で、
式で表すと以下となります。
\[\varepsilon=\dfrac{\pi\cdot(\dfrac{d}{2})^{2}\cdot N}{w\cdot h}\times100\]
\(\varepsilon :\)エナメル線の占積率\((\%)\)
\(w:\)コイル長さ\((mm)\)
\(h:\)コイル層方向長さ\((mm)\)
\(d:\)被膜の厚さを含めた線径\((mm)\)
\(N:\)コイル総巻数
非整列巻きの場合の占積率は実測による経験値であり、一般に65%~68%の値がとられます。正確な占積率は、試作を通して把握することになります。
以上から、非整列巻きコイルの総巻数\(N\)は以下となります。
\[N=INT\,\{\frac{\varepsilon\cdot w\cdot h}{\pi \cdot (\dfrac{d}{2})^{2}}\}\tag{2}\]
ここでINTは、小数点以下を切り捨てる関数を示します。
今回の記事はここまでとなります。
次回は、JISの寸法表から被膜厚を含めた線径を求める方法と、コイルの直流抵抗の計算方法を説明します。