コイルの固め方

コイル

コイルの製作に関する内容の一つとして、コイルを固める方法について説明します。
本記事は、コイルの製作経験の少ない方を対象にしています。

まず最初に、コイルを固める必要性について考えてみます。コイルを固める主な目的は以下と考えています。

 (1)コイルの形状維持のため。
 (2)コイルの機械的強度を上げるため。
 (3)絶縁の強化のため

空芯コイルの場合は、巻いたままでは簡単に崩れてしまうため、形状維持のために全体を固めることは必須です。そこで、まず最初に、空芯コイルを固める3つの方法について説明します。

 方法1.自己融着線を使用する方法。
 方法2.接着剤を塗布しながら巻線する方法。
 方法3.巻線後にワニス含侵処理を行う方法。

自己融着線を使用する場合

一般的なマグネットワイヤは、銅線の表面に絶縁層を焼き付けたものですが、
自己融着線は、この絶縁被膜の上に更に融着層を加えたものです(下図参照)。

自己融着線を「ボンド線」と呼ぶこともあります。
融着層は、常温下では固体で 粘着性はありませんが、140℃以上の高温で融解します。
融解した後 常温に戻すことで、隣接する線同士が接着され、結果的に全体が固まります。
融着層を溶かす方法は二通りあります。一つは、小さなドライヤーの様なもので、線材に熱風を吹き付けながら巻線を行う方法、もう一つの方法は、巻線後に巻き冶具ごと高温の温度漕に入れる方法です。

熱風を吹き付けながら巻線を行う方法は、固めるための工数が少なくて済むという利点があります。一方で、温度の管理が難しいため、作業環境などの影響で接着ムラが発生する危険があります。また 極細線の場合、巻線時に線材が切れやすくなるという欠点もあります。

温度層に入れる方法は、工数がかかってしまうことが欠点ですが、正確な温度管理ができるため、安定した接着が可能です。

さて、凝固した融着層は、線と線の隙間を埋めた状態で固まっています(下図参照)。

このため、融着線で巻数を計算する場合、融着層の厚みは無視しても大丈夫です。
初めて融着線を使ってコイルを設計した際、融着層の厚さも含めた線径を算出し、巻数と寸法を計算しました。その後 会社の先輩から、線径に融着層の厚さを含めなくても問題のない事を教わり、それ以降は、融着線の厚さを無視して計算をしています。

融着線は便利で使いやすい線材なのですが、基本的に線材メーカは在庫を持っておらず、受注生産となっています。
最小購入単位は数百キログラムで、納期は3か月以上と聞いています。
また導体径がΦ1.0mmを超える太い線に融着線は存在しません。これは線材の製作上の制約によるものと聞いています。
このため、融着線を使ってコイルの試作を行う場合は、前もってコイルの製造業者に、融着線の在庫を確認することをお勧めします。

接着剤を使用して固める方法

空芯コイルの製作において、融着線の在庫がない場合、または導体径Φ1.0mm以上の線で製作する場合に採る方法です。
接着剤は、 臭いが少なく耐熱性の良い、エポキシ系接着剤を使用することが多いです。コイルの製造業者に相談すれば、良い接着剤を紹介してくれます。
1層巻くごとに 接着剤を塗布し、巻き終わった後に冶具ごと温度漕に入れて硬化させます。製作に手間がかかりますので、数個レベルの試作を行う際に採る方法になります。

ワニス含侵処理を行う方法

私自身は、自分の設計品に対し、ワニス含侵を行った経験が無いため、以下の記事は一般論となりますことをご了承下さい。
ワニス含侵は、コイルを固める目的もあるのですが、絶縁強化が主な目的といえます。
特にモーターコイルやトランスに、ワニス含侵を行うことが多い様です。
モーターの場合、交流電圧の印加により線材に振動が発生します。更に回転によるメカ振動も加わり、線同士が擦れあうという現象が発生します。この場合、線材の隙間にゴミや埃が侵入していると、線材の表面が傷つき絶縁不良を起こす可能性が高まります。

これを回避するため、コイルの洗浄と乾燥の後に、ワニスを含侵させるという方法を採ります。ワニスを線材の隙間に満遍なく行き渡らせることが重要になります。
トランスもワニス含侵を行うことの多い部品です。これも絶縁強化を目的としている場合が多いです。

また、絶縁抵抗値の低下してしまったコイルを復旧させる方法として、ワニス含侵を行う例もあります。この場合、洗浄、乾燥、ワニス含侵をセットで行います。

ワニスを含侵する主な方法は、以下になります。

 ①タンク内のワニスに、コイルを漬ける方法。
 ②タンク内のワニスにコイルを漬けた状態で、タンク内を真空にする方法。
 ③先端からワニスの出るノズルを使用し、コイル全体に塗布する方法。

今回は、ここまでといたします。
次回は、コイルの製作に使用するエナメル線の種類について説明いたします。