コイル図面の描き方

コイル

 本記事は前回の続き、空芯コイルの製作図面の描き方を説明します。
「コイルの製作図を描きたいのだけれど、どのように描けばよいのか分からない」という方を対象にしています。

 今回は、円形空芯コイルを例に、正面図と側面図の配置、寸法と公差の入れ方について説明します。本内容は試作品用の図面になります。

図面のレイアウト

 上の図1に図面例を示します。前回の巻線動画を見て頂くと分かるのですが、「巻き始め線」、「巻き終わり線」、「巻き方向」については、作業者に配慮した図面になっています。もちろん設計者の要求が最優先されますが、製作者に配慮した図面の作成を心がけることは大切です。イメージし易いように、線材の線を部分的に入れています。

寸法の入れ方

空芯コイルの場合、以下の3点を明記してください。
(1)コイルの内径・外径と長さ寸法(図面a,b,c寸法)。
(2)「巻き始め線」と「巻き終わり線」の大体の引き出し位置と長さ(図面d寸法)。
(3)巻き方向の指示。
巻き方向は、「巻き始め線」にプラス電位を、「巻き終わり線」にマイナス電位を与えたときに、電流の流れる方向になります。

寸法公差

コイル内径寸法

 巻き冶具の製作精度を上げれば、厳しい公差でも対応可能です。試作でしたら±0.05の公差でもどうにか対応できます。しかしながら、コイル内径の公差については、設計上必要な場合を除いて、min寸法(指定した寸法より大きければok)とすることを推奨します。
 製作上、コイルの内径は、芯となる巻き冶具より小さくなることはありません。また、テンションをかけて巻いているので、大きくなることもありません。巻き冶具は基本的に、指定された中心寸法で製作されます。

それではなぜ、min寸法を推奨するのかというと、製作側の精神的負荷の軽減のためです。
min寸法の場合、検査は、コイルの内径に 巻き冶具の芯が入ればOKとなります。しかし、内径に厳しい公差が入っている場合は、ノギスでコイルの内径を測定する必要があります。実はこれが厄介なのです。ノギスの先の尖っている金属部分を、コイル表面に接触させて押し付ける必要があるため、ワイヤ表面に傷を付けてしまう確率が高いのです。傷のチェック検査でNGとなり、作り直しになる可能性が高くなります。傷を避けるために、非接触の画像による寸法測定方法もありますが、コイルの寸法測定には向きません。エッジがぼやけてしまい、測定誤差が大きくなります。外径の場合は実際より大きい値に、内径の場合は小さな値になります。min寸法をおすすめするのは、このような理由からです。

 測定の問題ですので、内径に厳しい公差を入れた場合には「内径寸法の検査は、巻き冶具の芯が入れば良しとする。但し巻き冶具の芯の直径実測値を記載のこと。」と注記に記載するのも一案かもしれません。

コイル長さ寸法

公差が必要な場合は、①巻き始め線の厚みを含めない寸法に公差を入れ、②巻き始め線の盛り上がりを別寸法で規定するのが良いでしょう(図2参照)。作る側もやりやすいですし、設計者も巻数の計算がしやすくなります。

コイル外径寸法

この寸法はmax寸法(指定した寸法より小さければok)としてください。外径寸法に公差の入ったコイルを試作したことはあるのですが、何度ものトライと、冶具の作り直しが必要になり、大変な時間がかかってしまいました。

以上、長々と書いて来ましたが、手っ取り早く「寸法内で、できるだけ沢山巻いて欲しい」という場合は、
①内径をmin寸法、外径をmax寸法で指示し、
②巻数の計算値を参考値として記載し、
③注記に「巻数は寸法内で巻けるだけ巻くこととする」と記載する
のが良いと考えます。

端末線の長さ

端末線の長さの公差は、±3mm、±5mm程度が一般的です。測定のし易さから、コイル外径からの長さを指示するのが良いでしょう。

その他の指示について

 更に細かいことを指示した図面例を、上記図2に示します。
 引き出し線は解れやすいので、根本に接着剤の塗布を指示することがあります。使用する接着剤は耐熱性、粘度、成分などを考慮して決めなければなりませんが、コイル製作会社に、普段使用しているおすすめの接着剤を紹介してもらうのが良いでしょう。必要でしたら、接着剤の塗布範囲を(ここからはみ出したらNGという範囲)寸法で指示します。

最後になりますが、研究用であっても、後々の追加発注や設計変更を考えると、図面はきちんとしたものを残すべきと考えます。
図面と一緒に、実際に製作した仕上がり寸法と巻数、直流抵抗値、インダクタンス値などを記載して保管しておくと、業務の引継ぎもスムーズにいくのではないでしょうか。

今回の記事はここまでです。次回はコイルの固め方について説明します。